生活と、そのほかのこと 9/25〜10/1号

2023年9月下旬の食事や生活について。鹿児島へ行ったことや、新幹線で読んだ本のことなど。
ffi 2023.10.04
誰でも

<目次>

  • はじめに

  • 追想のたび

  • 食事と生活

  • 『作品』の話 

はじめに

なにかを書きたい人と、あまり書きたいと思わない人がいる。読むことが好きな人と、別に読みたくない人がいる。

わたしは「書きたい」し「読みたい」人だ。

書きたい人には本当にずっと書きつづけている人もいて、そういう人たちと比べると自分はそんなに、とも思う。読む方についても同じことで、周りを見れば自分よりもすごい人はたくさんいる。常にいる。

わたしは、書きたい人だ。でも、なにもないところで書き続けられる人ではないし、他のことを放り出して読み続けられる人でもない。だから、こういう仕組みを使って書いていこうと思う。

毎週、だれかのメールボックスにこのニュースレターが届く。わたしはその人のために書く。読みたい人のために書く。そこからさらに新しい文章が生まれていくことを期待しながら書く。

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追想のたび

仕事で鹿児島へ行く機会があり、旅程を延長して桜島へ渡った。9月末だというのに相変わらず猛暑のような暑さだったし、帰りの時間もあったからのんびりはできなかったが、よい滞在だった。

桜島は活火山で、いつも噴煙を上げている。1914年にとてもおおきな噴火があって、そのとき流れた溶岩によって海峡が埋め立てられて大隅半島の一部になった。それまでは島だったが、いまは島ではない。

あなたがいま立っている場所は、約100年前に流れ出てきた溶岩でできている。その溶岩の上に森が生い茂っている。はじめにコケが生え、ススキが育ち、マツが育つ。いちど何もなくなってしまったから日差しを遮るものがなく植物の生育にもよい。そんなことが案内看板に書かれている。

島には活火山がもたらした死と100年を掛けて再生している生とがあり、そこに人間の死と生が重なりあっている。

110年前の大爆発のあと建てられた記念碑には、こうあるそうだ。

(……)海岸には熱湯が湧きだし旧噴火口からは白煙が上がるなど刻々とせまる危険な気配に、村長は数回測候所に問い合わせたが、桜島には噴火はないという答えだった。村長は、残っていた住民にあわてて避難するには及ばないと説得した。ところが間もなく大爆発して測候所を信頼した知識階級の人がかえって災難に合い、村長一行は逃げ場もなくそれぞれ海に身を投げた。
(……)
住民は理論を信頼せず、異変を感じた時は事前の避難の用意がもっとも大事で、日頃からいつ災いにあってもあわてない心構えが必要である事を、碑を建てて記念とする。
大正13年1月 東桜島村
桜島ビジターセンター内展示物より

「大正」から思い出すのは映画『福田村事件』だ。100年前の人たちがどのように考え生きていたのか、映画を観たときよりももうすこし具体的に想像できるように思えた。

平野国臣の歌碑

平野国臣の歌碑

大正からさらに50年ほど遡ると明治維新の時代になる。鹿児島市内には幕末の志士たちの像や記念館がいくつもあり、観光資源としていまも活躍している。

桜島の展望台のひとつに、福岡藩士だった平野国臣の歌碑がある。

わが胸の燃ゆる思ひにくらぶれば煙はうすし桜島山

熱く燃える恋心を歌っているかのように読めるこの歌だが、実際には政治活動を反対された無念を歌ったものだという。それはとても無念だったのだろうけれど、恋の歌だと思ってしまったわたしの感動の立つ瀬がない。歌碑を建てるときは解説も隣にそえておいてほしいものだ。

わたしが桜島を歩いたのは今回が2度めで、前回は2019年10月のことだった。レンタカーを借りてフェリーに乗り、島内の温泉にも立ち寄った。まだ自由にどこへでも行けた。仕事も比較的充実していた。それから4年が経った。いいこともあれば悪いこともある。当時と同じ旅程ではない。のんびりとドライブできるような余裕は、いまのわたしにはない。

この4年間で失われたもの、手放してしまったものはいくつもある。桜島は4年前と同じように力強くそこにあり、わたしは思い出を取り戻せないものかとつい考えてしまう。相変わらずの暑い日差しが、思考すること自体を妨げる。

追想のたび太陽はつよく射しうすき煙の桜島山

桜島フェリーから見る桜島

桜島フェリーから見る桜島

食事と生活

9月25日(月)

月曜の夜は妻がテレカンをすることが多い。妻の作業スペースはキッチンに近く、テレカンのあいだは調理の音が出せない。終わり次第すぐにつくれるような献立が必要になる。

白米の冷凍ストックがなかったので、1食分を気軽につくれるパエリアにした。パエリアは便利だ。具材を炒めるところまでやっておけば、米を入れてしばらく煮てから蒸らせばよい。完成までの手間が少なく、時間も読みやすい。食べごたえもあって楽しいし、洗い物も少ない。味付けや具材のバリエーションも豊富で、冬の寄せ鍋くらい素晴らしい。もっと定着してもよいのではないかしら。

じゃがいもと小松菜とソーセージのコンソメパエリア、小松菜と卵の鶏がらスープ

じゃがいもと小松菜とソーセージのコンソメパエリア、小松菜と卵の鶏がらスープ

といっても、パエリアの優秀さを思い出したのはBlueskyで「ご飯を炊くのが面倒」とpostしている方を見たからだ。ご飯を炊くのは実際けっこう面倒なのだけど、炊事に慣れてしまった人にとってはあまり気にならないことだし、その役割を担当しない人にとっては思いもよらない。だって炊くだけでしょう?と空想のなかの誰かが言う。わかってないな、とわたしは言う。

9月26日(火)

ルクア イーレの蔦屋書店に行き、少し時間を掛けて棚を眺める。批評やジェンダー論などの本にも相応のスペースが割かれていて嬉しくなった。次になにか買うときにはきっとこの店に来よう。

豚こまとピーマンとモヤシの炒めもの、インスタントの味噌汁、納豆

豚こまとピーマンとモヤシの炒めもの、インスタントの味噌汁、納豆

週後半の出張に向けて冷蔵庫を空にしていく。納豆やインスタント味噌汁を使えれば、あとは野菜炒めをつくれば十分。

9月27日(水)

いよいよTwitterをやめようと思い立ち、500以上あったフォローをどんどん解除していく。そのうちに愛着が戻ってきてしまい、中途半端なところで止めてしまう。なにしろ16年以上の思い出が蓄積されているのだから、簡単には離れられない。終活というものがこういう気分になるのなら、できればやらずに終わらせたいなと思う。

中華丼と餃子

中華丼と餃子

AJINOMOTOの冷凍ギョウザが非常に優秀であることはいまさら指摘する必要もないが、冷凍中華丼も素晴らしい商品だということはまだ知られていないかもしれない。

鍋に湯を沸かし、レトルトパウチの中華丼を温める。そのあいだにギョウザを焼く。ストックのご飯を温める。2品がほとんど同時に完成する。湯煎に使ったお湯は洗い物に使える。味もとても美味しい。黄金の献立だ。

9月28日(木)

鹿児島出張のため朝5時すぎに出発する。Blueskyのタイムラインを見ると海外在住の方たちが喋っているのが見える。早朝の静かさの中で、カラスの鳴く声が行き交っている。

この経度ではない場所は朝でさえなくカラスらの交わしあう声

飛行機の窓から見えた空

飛行機の窓から見えた空

雲の上の空は青く、上から見た雲は白い。眼下の景色を見ていると「諸々のことなど小さなことだな」と思えてきて、なにか穏やかな気持ちになった。飛行機に乗ると、大きな力に身を委ねている感覚になりやすい。思考もその影響を受けている気がする。

鹿児島県は広い。レンタカーでの長距離移動が続く。夜は地元の居酒屋。土手煮のような「とんこつ味噌煮込み」がとても美味しかった。

9月29日(金)

鹿児島2日め。朝食バイキングにいかにも地元で愛されていそうな「ヨーグルッペ」があったので喜んで飲む。

ホテルの朝食バイキング

ホテルの朝食バイキング

2日めの移動では車酔いになった。ドラッグストアに寄ってもらい酔い止め薬を飲む。取材を終えて15時頃に鹿児島中央駅で解散した後、ひとりで天文館のホテルへ。身体も精神も疲れていたので熟睡してしまい、目が覚めた後もYouTubeで気楽な動画をダラダラと見ながら回復をはかる。

天文館の街は少し変わっている。若い女性が男性を接客するタイプの店が、普通の居酒屋と混ざり合って営業しているようだ。よくある繁華街ではそうした店は特定のブロックに集積しているものだが、ここではグラデーションというかモザイク的に入り交じっている。

おとなしい店舗が中心のアーケード街で居酒屋に入り、ブリの刺身やさつま揚げを食べながら焼酎を飲む。九州名物の「甘い醤油」を楽しんだ。

締めのラーメン

締めのラーメン

9月30日(土)

鹿児島3日め。朝食はコメダ珈琲のモーニング。

朝9時、観光案内所が開くやいなや公共交通の1日乗車券を購入し、鹿児島港から桜島フェリーに乗り込む。月読神社を参拝し、高浜虚子の句碑と戦没者慰霊碑を見る。周遊バスで島の一部を周り、またフェリーに乗って鹿児島港へ戻る。

帰りのフェリーでは名物のうどんを食べることができた。味はそれほどよいと思わなかったが、20分ほどの乗船時間でうどんを注文して食べることに価値がある。

スーパーマーケットをまわる。旅先ではスーパーマーケットを見るのが趣味だ。ライフワークと言ってもいい。ゴマ豆腐や玉子豆腐の並びに「ピーナッツ豆腐」がいたのが気になった。なんとなく、納豆のひきわり率が高い気もする。知らないタイプの高い豆モヤシが売られていた。そういえば初日の居酒屋にも2日めの居酒屋にもモヤシ料理があったが頼まなかった。悔やまれる。

来るときは飛行機だったが、復路は新幹線。鹿児島中央から新大阪まで乗換なしで4時間強。こんな機会はなかなかつくれない。

新大阪駅に迎えに来てくれた妻と、駅ビル内の居酒屋で夕食。鹿児島で食べた料理とつい比べてしまったりもしたが、気のおけない相手と落ち着いて食事できることの幸せをこそ思う。

10月1日(日)

遅く起きてホットサンドを焼く。残っていたソーセージを輪切りにして、炒り卵といっしょにパンに挟む。

ふと思い立って羊羹をつくる。御座候の粒あんは、阪神タイガース優勝セールをしていたとき記念に買っていたもの。あんこに砂糖を追加しているのだから甘い。あたり前田のクラッカー。

羊羹の材料と用具

羊羹の材料と用具

朝が遅く、羊羹もはさんだので、昼食は省略。出張の疲れがたまっていて思考力がだいぶ落ちている。

夕食の献立は妻に具体的なリクエストをしてもらった。焼きそばは金龍の焼肉のタレで味付けをしている。ナスと焼サバの薬味ポン酢は「マツコの知らない世界」で紹介されていた料理。美味しいのでよくつくる。刻みハムとミョウガを乗せた冷奴も同じ番組で以前紹介されていたものだが、妻はそのことを覚えているのだろうか。

味噌だれ焼きそば、焼きナスと焼きサバのポン酢掛け、刻みハムとミョウガの冷奴

味噌だれ焼きそば、焼きナスと焼きサバのポン酢掛け、刻みハムとミョウガの冷奴

夕食後に、アニメ『葬送のフリーレン』を配信で観る。好きな作品がていねいにアニメ化されていて嬉しい。

『作品』の話

『雨の中で踊れ 現代の短篇小説ベストコレクション2023』

『雨の中で踊れ』(文春文庫)

『雨の中で踊れ』(文春文庫)

鹿児島中央駅で新幹線に乗る直前に買った本。移動中に読むのに短編小説集はちょうどいい。

君嶋彼方と須藤古都離と一穂ミチが特によかった。ふだんこのジャンルの――『小説現代』や『小説宝石』に掲載されるような、つまりいわゆる四大文芸誌などと呼ばれる文芸誌に載るのではなく、SFやミステリやファンタジーや歴史物のようなはっきりしたジャンルにも属さないようなタイプの――小説をあまり読まないので、とても新鮮だった。

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<謝辞>
このニュースレターは、「日日猫好日だより」におおきな影響を受けて制作されました。コンテンツ構成はほぼそのまま参考にしています。ありがとうございます。

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次回は10/11(水)に配信予定です。

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